一票の価値 ― もう一歩・確率で考える(④⑤)

自分の1票で、当選確率はどれだけ変わる? それでも投票する意味は?

「自分の1票で結果が決まることなんて、まずない」。確率で考えると、たしかにそうです。けれども、確率だけで1票の価値が決まるわけではありません。④では1票が当落に及ぼす影響を、⑤では「人は何のために投票するのか」を、式に数字を入れながら考えます。

④

当選確率を変える効果

自分の1票で、支持する候補の当選確率はどれだけ上がる?

発展

自分以外の人の投票は同じとして、自分が投票した場合と、棄権した場合の「支持する候補の当選確率」の差を p とします。「1票が全体の何分の1か」(③)と、「1票が結果を変える可能性」(④)は、別のものです。

式□ の数字を書きかえると、その場で計算します

なぜ ½ ?2人の選挙で、同じ票数ならくじで決めるとします。ほかの票が同数のとき、自分の1票で「くじ(勝つ確率50%)」が「勝ち(100%)」になります。支持する候補が1票差で負けているとき、自分の1票で「負け(0%)」が「くじ(50%)」になります。どちらも当選確率を50ポイント上げるので、½ をかけます。

同数や1票差になる確率を見積もる現実の値は有権者数だけでは決まらず、接戦の度合いや予測が必要です。2つの考え方(モデル)で見積もります

計算の結果

選挙の大きさでくらべる投票する人が10倍になると、p はどう変わる?(予想と予想のぶれは、上の式の数字)

データの調べ方
  • 投票する人の数:有権者数 × 投票率。③と同じく、選挙管理委員会の「投票結果」で調べられます。
  • 予想の得票率と、予想のぶれ:決まったデータはありません。世論調査や、前回の選挙の結果から見込みを立てます。地方選挙では世論調査がないことが多いので、仮の数字を入れて、変えたときのちがいを見てください。

気をつけたいこと

現実の値は、有権者数だけでは計算できません。接戦の程度、投票行動の予測、選挙制度などが必要です。何人も当選する市議選や比例代表では、それぞれの制度に合った計算が必要です(当落の境目の2人で考えるのが、ひとつの近い考え方です)。

コイン投げのモデルは、全員が五分五分で、たがいに関係なく投票するという仮定から出てくるもので、実際の大きな選挙では、接戦になる確率を大きく見積もりすぎることが研究で示されています。票差から「1 ÷ 票差」で確率を出すのはまちがいです(○×クイズ)。

?考えてみよう

確率が小さいことは、投票しなくてよい理由になるでしょうか。

⑤

投票の期待効用

人は、何のために投票するのか?

発展

棄権とくらべて、投票することで得られると期待する価値を R とすると、R = p × ΔB − C + D と表せます(ライカーとオードシュックの投票行動モデル)。p は④の「当選確率を変える効果」、ΔB は候補者によって変わる政策の便益の差を自分がどう評価するか、C は情報集めや移動・時間などの負担、D は意思を示した満足や、参加した実感、市民としての責任を果たした感覚などです。当落を変える可能性だけでなく、政策の重要さや、参加すること自体の意味まで考えられる式です。

式□ の数字を書きかえると、その場で計算します。価値や負担は、同じ「評価点」にそろえて入れます

計算の結果

ΔB に、まち全体への便益も入れて考える自分の暮らしへの利益だけでなく、社会全体への利益をどう評価するかも ΔB に含められます

気をつけたいこと

価値や負担は、同じものさし(評価点や円)にそろえます。②の「予算を有権者数でわった金額」を、そのまま ΔB に入れることはできません。予算の規模と、候補者が変わることで生まれる便益の差は、別の量です。

「どちらの候補が、まち全体にとってどれだけよいか」は、人によって考えがちがいます。子どもなど有権者でない人も、選挙の結果の影響を受けます。この式は、人が投票する理由を説明するためのモデルで、1票の「値段」ではありません。

?考えてみよう

あなたにとっての D(投票すること自体の価値)は、何ですか。選挙の結果による「差」(ΔB)は、何ですか。

このページの前提と参考文献

④は、2人の候補が争い、同じ票数ならくじで決める選挙を考えています。議員選のように何人も当選する選挙では、当落の境目(最後に当選する人と次点)で同じように考えることができます。

「予想の幅」のモデルでは、選挙前の予想の得票率が、正規分布(つりがね型の分布)のようにぶれると考えています。同数と1票差の負けを合わせた確率は、およそ「得票率がちょうど50%になる見込みの高さ(接戦の度合い)÷ 投票する人の数」になります。

  • Riker, W. H. & Ordeshook, P. C. (1968) A Theory of the Calculus of Voting. American Political Science Review 62(1), 25–42. Cambridge Core
  • Edlin, A., Gelman, A. & Kaplan, N. (2007) Voting as a Rational Choice: Why and How People Vote to Improve the Well-Being of Others. Rationality and Society 19(3). PDF
  • Gelman, A., Silver, N. & Edlin, A. (2012) What is the Probability Your Vote Will Make a Difference? Economic Inquiry 50(2), 321–326. NBER
  • Gelman, A., Katz, J. N. & Bafumi, J. (2004) Standard Voting Power Indexes Do Not Work: An Empirical Analysis. British Journal of Political Science 34(4).
  • Mulligan, C. B. & Hunter, C. G. (2003) The Empirical Frequency of a Pivotal Vote. Public Choice 116, 31–54. NBER

年代順の事例と研究は、もっと学びたい人のために(事例と年表)にまとめています。