生成AIは、地方議会の仕事をより深く、住民により開かれたものへ変える可能性があります。その可能性を最大限生かすべく、議会としての議論が必要と考えています。来年の4月に統一地方選を控え、多くの議会で選挙が行われるこのタイミングはまさに絶好の機会です。
現在は、私を含め、多くの議員や職員、市民の方が程度の差こそあれ生成AIを様々な形で活用しています。必要なことは、個々での活用だけでなく、その先にある、議会として、地方自治体として、生成AIとどう向き合い、どの様に利用してゆくのか、という議論です。
生成AIは非常にパワフルで強力ですが、便利な道具に考える過程まで預けてしまえば、議会の形は残っていても、その中身がなくなってしまう危険性があります。質問も答弁も整っているだけで空疎、どこか他人事であったりする。誰も十分に確かめていない話があったり、住民の意見は集められていても、本当に切実な話が議論になっていない。そんな事態を招かないために、今から考えておかなければなりません。
誰が判断し、誰が責任を負うのか。住民は、その判断にどのように関わることができるのか。
生成AIと地方議会を考える上で、この問いは大切です。
議会の現場で始まっている活用
一部の地方議会では、具体的な活用とルールづくりが始まっています。
島根県の浜田市議会は、2025年7月から、委員会等の会議録作成に、音声認識と生成AIなどを組み合わせた仕組みを本格導入しています。対象は要点筆記の会議録で、作成時間を従来の約4分の1に短縮したと報告しています。AIの出力はそのまま使わず、必ず職員が確認する運用です。[1]
愛知県の大府市議会は、2025年の取組として「大府市議会生成AIガイドライン」の策定を公表しています。2026年8月にも全議員を対象に研修を行い、生成AIによる資料分析や、出力された情報を自分自身で確認する必要性を取り上げました。[2]
令和5年8月に奥州市議会で作成された「奥州市議会ICT推進方針」では、生成AIを活用する時の留意事項が4項目にわたって例示されています。[3]
こうした事例は、作業の効率化と、適切に使うための備えを一緒に進める姿を示しています。
議会と住民の距離を縮める可能性
これからの活用で期待したいのは、誰もが、より多くの判断材料に触れられるようになることです。
議員にとっては、予算・決算資料の年ごとの違いや、過去の答弁と現在の説明の食い違いを調べる助けになります。調査の入口を広げ、見落としていた論点を探し、自分の考えに対する反論を検討する。こうした使い方ができれば、政策を吟味する時間を増やせます。
住民にとっては、難しい議案を平易な言葉で理解したり、「この予算は私の暮らしにどう関わるのか」と確認できる仕組みが考えられます。その際、説明と一緒に元の資料や会議録の該当箇所が示されれば、自分で出展や根拠にいたるまで確かめることもできます。
海外の取組も参考に出来ます。フランスの経済社会環境評議会(CESE)は2024年、市民会議の議論について、AIによる短い出典付き要約を提供し、元の動画や報告書にアクセスできる仕組み「Panoramic」を発表しました。[4]
地方議会でも、こうした仕組みを応用し、議論を深め、より多くの人を巻き込むことが可能となります。住民から寄せられた意見を論点ごとに整理し、共通点と相違点を比較したりしながら話し合うこともできます。
実際の成果について、どう評価するかはこれからの課題の一つです。生成AIで説明文を作った数で測れるものでもありせん。住民が理解しやすくなったか、これまで参加しにくかった人の声が届いたか、議論によって政策案が改善されたか。そこまで確かめたいと思います。これまで同様の仕組みや、紙を使ったり、対面で参加する道も、確保しておかなければなりません。
考える過程を省くことで起きる空洞化
生成AIを使う上で、注意したいのは、整った文章を読んだことで、自分も十分に理解したように感じてしまうことです。
米国国立標準技術研究所(NIST)は、生成AIが誤った内容や実在しない出典をもっともらしく示す危険、人がAIに過度に依存する危険を整理しています。これは春市ネーションと呼ばれる現象もその一つです。文章が自然で、説明が詳しくても、それだけで正確さが保証されるわけではありません。[5]
ここから地方議会の仕事に当てはめて考えてみます。
例えば、議員がAIの作った質問を十分に理解せずに読み上げ、行政側もAIの作った答弁を十分に検証せずに返すとしたらどうでしょう。形式上は質疑が成立していても、前提となる数字が正しいか、説明に矛盾がないか、地域の実情に合っているか、本来それを確かめるのが議員の仕事です。
さらに、そのやり取りを別のAIが要約し、住民も要約だけを読む。誰も元の資料に戻らないまま、「十分に議論された」という印象だけが広がることは大変危険です。
議会が開かれ、発言が交わされていても、実質的な検証や対話が失われてしまっては、これは「民主主義の空洞化」です。
民主主義が形骸化することを防ぐには、質問の根拠を確かめ、答弁の意味を理解し、必要ならその場で問い直すことが欠かせません。これは今まですべての議員が普通に行ってきたことです。生成AIを活用すればするほど、使う側には、資料と現場を結び付けて考える力が求められます。
要約の中に埋もれる声をどう守るか
生成AIの要約機能にも注意が必要です。住民の意見が分かりやすく整理されたとき、整理の過程で何が抜け落ちたのかということが大切です。
経済協力開発機構(OECD)が2026年6月に公表した報告書も、AIによる意見整理で少数意見が見えにくくなったり、生成AIが作る合意文が議論の複雑さを削ってしまったりする危険を指摘しています。[6]
例えば、公共施設の統廃合を考えてみます。
維持費を減らし、施設を集約する案が、多くの人には合理的に見えるかもしれません。しかし、車を運転できない人、歩行が難しい人、その施設を唯一の交流の場にしている人にとっては、生活を大きく変える問題です。
AIに「最も効率的な案」を求めるときにも、費用、移動時間、利用しやすさ、地域のつながりのうち、何を重く見るかを人が決める必要があります。集計された意見の多さと、暮らしへの影響の大きさは、それぞれを確かめなければなりません。
そしてまた、住民が納得できる過程も大切にしなければなりません。顔を突き合せ、活動報告を作成し、自分の言葉で丁寧な説明を行うことはもちろん、全員が同じ結論に賛成できなくても、違う意見の尊重され、自分の意見がどう扱われたのか、なぜその判断に至ったのか、一つ一つ丁寧に伝える、その積み重ねが必要です。
AIに住民の反応を予測させても、実際に住民の話を聴く過程は欠かせません。OECDも、市民を模擬したAIによるシミュレーションを、現実の市民参加の代わりにしないよう求めています。[6]
判断の責任を曖昧にしない
地方自治法第89条は、住民が選んだ議員で議会を構成し、重要な意思決定や検査・調査などを担うこと、議員が住民の負託を受けて誠実に職務を行うことを定めています。[7]
この役割は、AIが判断材料を示しても、議員が自ら考え、判断の理由を住民に説明する責任があることを示しています。「AIがそう答えた」ということは説明になりません。何を重視し、どのように考え、なぜその判断・選択をしたのかを自分の言葉で伝えてこそ、説明責任を果たすことになります。
国際的な指針として、列国議会同盟(IPU)の議会向けAIガイドラインも、人間の能力を支える活用、人間による監督、透明性と説明責任を重視しています。[8]
ここで、「最後に人が確認する」と書くだけでは足りません。確認する人に十分な時間や情報がなく、AIの出した案を修正する余地もないとしたら、確認は名目だけになりかねません。
どの資料を根拠にしたのか、どこにAIを使い、何を人が確かめたのか、異なる選択肢をどう検討したのか、判断に関わる重要な部分を記録として残し、公開し、説明できる仕組みが必要です。
行政のAI利用を確かめる議会へ
議会には、自ら生成AIを使うことに加えて、行政のAI利用をチェックする役割もあります。
国では、2026年6月にデジタル庁の生成AI調達・利活用ガイドラインが改定されました(第2.0版)。責任者による統括や利用に応じたリスク評価を定め、職員等が出力の適切さを判断せずに使う業務設計は、リスクを高めるとしています。政府向けの指針であり、地方公共団体には必要に応じて参考にすることが期待されています。[9]
地方議会でも、行政に対して、具体的に確かめる必要があります。
- 使う目的は何か。 住民サービスのどの部分を、どの様に改善しようとしているのか。
- どの情報を扱うのか。 どの様なルールで何の情報を扱い、住民の相談内容や個人情報を、どこまで入力・保存するのか。
- 誰が確かめるのか。 誤った案内や偏った出力に気付き、どの様なプロセスで人が訂正できるのか。
- 困った住民は誰に相談できるのか。 説明や見直しを求める窓口があるのか。
- 効果は確かめられるか。 導入費用、確認・修正の負担も含め、住民の満足度等総合的に効果を評価しているのか。
例えば、福祉制度の案内にAIを使う場合、誤った説明によって、利用できる制度を住民が諦めてしまうようなことがあってはなりません。便利になったという評価とともに、利用者が受ける影響を確かめることも同時に行う必要があります。
議会自身が生成AIについて学び、行政や提供事業者の説明を吟味できる力を持つことも、これからの行政監視を支える大きな課題です。
一人ひとりが自分に問いかけたいこと
生成AIと地方議会の問題は、議員や行政職員だけで完結するものではありません。議会の情報を受け取り、地域の意思決定に関わる住民も、その当事者です。
議員である私たちは、こう問いかける必要があります。
「この質問や主張の根拠を、自分で確かめたか」「自分と異なる意見に向き合ったか」「なぜその判断をしたのか、自分の言葉で説明できるか」。
行政職員には、こんな問いが求められます。
「この出力を住民に示してよいか」「誤りがあれば訂正できるか」「AIを利用しにくい人も、必要なサービスにたどり着けるか」。
住民の立場でも、確かめたいことがあります。
「この説明の出典は何か」「別の見方や、抜け落ちた声はないか」「議員や行政は、疑問に答え、説明を見直してくれるか」「生成AIを使うことが良いのではなく、また使わなければ良いのでもありません。そのことをきちんと議員、行政に求めなければなりません」。
SNSで情報に接するときも同じです。NISTは、生成AIが偽情報の大量生成や、本物に見える偽の画像・音声・動画の作成を容易にする危険を挙げています。[4] 周知するべきと感じられたり、インパクトのある情報ほど、共有する前に発信元や元の記録を確認する必要があり、その一手間が、健全な議論と地域のコミュニティを守る行動になります。
しかし、住民全員が専門的な知識を持つことは現実的ではありません。議会と行政が、根拠にたどり着きやすい情報を示し、疑問を聞き、誤りを訂正する責任を果たすことが必要です。
生成AIによって、調べ、まとめ、伝えることは、格段に向上して行きます。その力を、対話を増やし、より深い議論を行い、住民が判断に関わる機会を広げるために使いたいと思います。
私たちは、生成AIを使うことで、何を考えるようになったのか。誰の声を新たに聴けるようになったのか。そして、その判断の責任をどう引き受けるのか。
その問いに、住民を巻き込んだ議会として取り組むことが、これからの地方議会と民主主義を支えることにつながると考えます。
参考資料
- 浜田市議会「AIチャットサービスを利用した会議録作成の導入(R7.7~)」(2025年12月11日)。会議録作成の工程、時間短縮の報告、職員による確認。
- 大府市議会「議会活性化の取組」(2026年4月15日更新)および「生成AI等に関する研修会を開催しました」(2026年8月18日更新)。議会のガイドライン策定と全議員対象の研修。
- 奥州市議会「奥州市議会ICT推進方針」(令和5年8月29日)https://www.city.oshu.iwate.jp/material/files/group/76/20240702.pdf
- フランス経済社会環境評議会(CESE)「市民会議の議論をAIで理解しやすくするPanoramicの発表」(2024年4月27日、リンク名は内容の日本語説明)。出典付き要約と公式資料へのアクセス。
- 米国国立標準技術研究所(NIST)「Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence Profile(NIST AI 600-1)」(2024年7月)。特に2.2節、2.7節、2.8節。誤情報生成、過度の依存、情報の信頼性に関するリスク。
- OECD「Artificial Intelligence and the Future of Citizen Participation」(2026年6月30日)、特に第3章。少数意見の扱い、議論の単純化、市民参加を置き換える危険。
- 岩手県議会「地方議会の役割及び議員の職務等の明確化」(2026年3月30日更新)。地方自治法第89条を掲載。地方自治法の法令本文(e-Gov)。
- 列国議会同盟(IPU)「Guidelines for AI in parliaments — About the Guidelines」。人間による監督、透明性、説明責任等の主要原則。
- デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(第2.0版)」(2026年6月12日)。特に本文2.2.1節、3.2節、4.2節。本文PDF。